南原 (ナムォン) 駅に着きタクシーに乗り込むと、運転手さんはなぜか行き先も聞かずに走り出してしまいました。きっと外国人だから広寒楼苑 (クァンハルルウォン) に行くと思ったのでしょう。確かにそこには行くつもりだったけれどその前に行ってほしい場所があったので、2ヶ所行ってもらえるかどうか先に確かめたかったんだけどな。
でも、こうなったら2ヶ所行ってもらうしかないと、「まず旧書道 (ソド) 駅に行って、それから広寒楼苑に行ってください」とNaverの地図に住所が書かれた紙を見せながらお願いすると、運転手さん、それはわかってくれたんだけど、「旧書道駅なんて行っても意味がないからホンブル文学館に行った方がいい」と言い出しました。
旧書道駅は廃線になってもう使われていない駅舎で、そんなものを見てもつまらないだろ?って言われたらそりゃあ確かにその通りなんですけどね。
でも、私にとっては「ミスター・サンシャイン」の世界を実感できる数少ない場所の1つなわけです。それを「意味がない」と言われてしまったので、つい「そこはドラマのロケ地で普通の人には意味がないのはよくわかっていますけど、私には意味があるんです!」って思わず反論してしまいました。
すると運転手さんは私がその場所に妙にこだわっていることだけはわかってくれたようで、とりあえず旧書道駅に向かうことになりました。
でも、運転手さん、まだ諦めていませんでした。旧書道駅に行く途中、自分が押すホンブル文学館について私に説明を始めました。それによると、どうやら「ホンブル」という有名な小説の舞台が旧書道駅だったらしいんです。で、作家さんがその小説を書いた?場所が記念館みたいになっているらしく、旧書道駅に行くならそこにも行くべきだと主張するわけ。そして、その場所は旧書道駅からほんの1kmしか離れていないとのこと。
60歳を余裕で越えている運転手さんが「ミスター・サンシャイン」のことを知らないのは無理もなく、それに運転手さんはお金を稼ぎたくてその記念館に行けと勧めているのではなく、南原の地元の人としてぜひ行ってもらいたくて言っているような気がしたので、私も根負けしてオススメどおりホンブル文学館にも行ってみることにしました。
まずは”意味のない”旧書道駅から🙃
こちらは日本統治時代に建てられたそうで、本当に昔日本にあったような趣のある駅舎でした。
線路が架け替えられ、2002年に新しい「書道駅」が300mほど先に造られてからは、このとおり「旧書道駅映像撮影場」として使われているようです。
駅舎の中にも入れるようになっていたので、ちょっとお邪魔してみました。
壁はきれいに塗り替えられていますが、窓枠や切符を買う窓口の枠は多分当時のままなんだと思います。レトロな感じが漂っていますよね。
駅舎を通り抜けてホーム側に出てみると、運転手さんが道中話してくれた小説「ホンブル」の1節が書かれた看板がありました。
今は使われていない線路。まっすぐな線路って見ていて気持ちがいいですよね。この先はどこに続いているんだろう、なんて一瞬おセンチな気分になりました。
が、そんな感傷に浸っている場合ではありません。使命を果たさねば。
ということで、いつものように持って来たドラマのキャプのプリントを片手に場所の特定にとりかかりました。
「ミスター・サンシャイン」ではここは済物浦 (チェムルポ) 駅として使われていて、まずはトンメに撃たれたエシンが汽車に乗ろうと駅に来たシーンから。
ここですね。
トンメに知られまいと怪我を隠して来てみたら、案の定トンメが駅で待ち伏せしていたんですよね、エシンが来ないことを願いつつ。エシン達はどんどん近づいてきて、駅舎全体が映ります。
ドラマは別にして、ホントに風情のある駅舎ですよね。
上は駅舎のホーム側ですが、別のシーンでは駅舎の反対側、つまり入口のあたりが「京城駅」として使われています。
わかります? 上のシーンではこの部分に右側の建物を合成して別の駅っぽく見せているんです。
そして廃線の線路でも撮影が行われています。
それがここ。
ちょっとわかりにくいのですが、ドラマのキャプの左上の部分に、この写真の真ん中にある小屋の柱とその先の塀がちらっと映っているんです。線路のカーブ具合も同じでしょう? このマニアックな発見はちょっと嬉しかったです。
こうして旧書道駅で”有意義な”10分を過ごし、運転手さんオススメのホンブル文学館に向かいました。
中は無料で見学できるようになっています。「ホンブル」が何か全くわかっていませんでしたが、せっかく来たので中に入ってみました。
写真を見ると若そうな作家のチェ・ミョンヒさん。作家さんのプロフィールとか直筆原稿の一部とか、「ホンブル」の小説本とか、
「ホンブル」の登場人物たちの関係図とか、
「ホンブル」で描かれている1930年代に使われていたっぽい物の展示とか
いろいろ展示物はあったんだけど、その時は作家さんがどんな人なのか、どれほど人気がある小説なのかとか全くわからず、とりあえず写真を撮っただけでした。で、帰国後調べてみたら・・・
小説「ホンブル」は日本語だと「魂の火」。10巻からなる大河小説で新聞の連載から始まり、書籍化されるとミリオンセラーになった、韓国では1990年代の最高傑作と言われるほどの小説だそうです。
その小説を書いたチェ・ミョンヒさんはこの長編小説を執筆していた17年の間にガンが見つかったにもかかわらず治療をせずこの小説を書き続け、結局小説は未完成のまま51歳という若さでお亡くなりになったそうです。
この小説に命を賭けていらっしゃったんですね。そんなこととは知らず、さらっとひととおり展示物を見ただけで出て来ちゃいました。申し訳なかったな。
ちなみにこのホンブル文学館、建物が素敵なんです。
ね、立派な韓屋でしょう?
小さな滝が流れるお庭は散策できるようになっていて
入口ではにゃんこがお昼寝をしている、そんなのどかな場所でしたが、運転手さんのオススメどおり立ち寄ってみてよかったです。
念のため、旧書道駅とホンブル文学館の位置関係がわかる地図を載せておきますね。
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